やがて季節は足早に過ぎ去り、気がつけば秋の装い。
　小春日和の温もりと光陰矢の如く流れる時の狭間で、いっ
たい僕は何処に辿り着くのだろう。

　天高く、澄み切った空に映える青き海原。魚たちの誘いに
気づけば我を忘れ、波間に佇み、ひたすらウキと戯れる。

　嗚呼、心の隙間に秋の風。それを満たすは釣り糸の曳き
の強さと大漁の釣果なり。

　 砂浜には、夏の忘れ物を探しに来た恋人たちの寄り添う
ふたつのシルエット。ひとつに重なり合い、陽射しもまどろむ。
　
　 沖行く貨物船、鴎の舞いに溜息をひとつつけば、過ぎ去り
し日々を偲び、しばし感傷に浸る。潮の流れに身を任せ、時
の経つのを忘れていたい。

　 防波堤より、遠き山に目を転ずれば、彩りを添える夕日に
映える美しき紅葉。海岸線に静かに咲く秋桜は、その背丈ほ
どに風にそよぎ、夢の藻屑たちを一点に連れ戻す。

　
　

　 秋の夜長、今宵ひとり、朧月夜に海を見つめ、風の便りに
君の消息を聞く。深まる秋に募るやるせない思い。頬を伝う
一筋の涙に咽ぶ、晩秋の風景画。
　
　時間とは何と無情なのか。心の片隅に置いた過去を、忘却
の彼方へと連れ去っておきながら、また悪戯に記憶を蘇らせ
る。移りにけりなこの想い、どうか天高く舞い上がらせてほしい。
　
　冷たい雨が雪に変わる頃、その想いに終止符が打たれるこ
とを、人知れず願わずにはいられない。